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2020.03.13

法定単純承認について

法定単純承認とは

相続が発生した場合、相続人が熟慮期間と呼ばれる一定の期間中に「相続放棄」か「限定承認」かを選択しない場合は、「単純承認」となり、被相続人の相続財産及び債務を相続することになります。

その他、法律で定められた一定の行為に及んだ場合には、単純承認とみなされ、それ以降相続放棄や限定承認をすることはできなくなります。これを「法定単純承認」といい、民法921条に定められています。

「処分」について

よく問い合わせを受けるのが、民法921条1号の「処分」該当性についてです。
「相続放棄を考えているが、被相続人の滞納家賃を返済してもいいのか?」
「形見分けはどこまで許されるのか?」
といったような質問です。
今回はこれについてご説明します。

相続財産の「処分」とは、相続財産の現状、性質を変える行為を言います。
このような行為を「相続人が自己のために相続が開始した事実を知りながら」行った場合や、「少なくとも相続人が被相続人の死亡した事実を確実に予想しながらあえてその処分をした」場合(最判昭和42年4月27日民集21・3・741)に、「相続財産の処分」があったとされ、法定単純承認が成立します。
つまり、被相続人の死亡を知らずに、住民税の滞納通知が来たので払っておいた、というようなことでは単純承認とはなりません。

具体的ケースについて

① 被相続人の所有する家屋を老朽化を理由に取り壊した場合
 「処分」には事実行為も含まれると解されており、家屋の取り壊しは「相続財産の現状、性質を変える行為」として、「処分」に該当します。

② 債務の弁済
 被相続人の滞納した税金や保険料、家賃などの支払いについては、相続人が自己の財産で支払ったのであれば、「相続財産の現状、性質を変える行為」ではないので、「処分」にはなりませんが、被相続人の相続財産から支払えば、「処分」となります。
しかし、相続放棄を考えているのであれば、いずれにせよ責任を負担する必要がなくなる債務ですので、その点は考慮しておく必要があります。 

③ 債権の取り立て
 債務者に催告をすることは、時効の完成を猶予する「保存行為」であり、民法921条1号但書によって、「処分」には該当しません。
なお、実際に取り立てた債権は、あくまで相続財産の一部として管理する必要があります。
取り立てた債権を自分のために使ってしまえば、それは「相続財産の処分」となります。

④ 形見分け
「一般経済価額を有するものは相続財産に属する」とした判例があります(大判昭和3年7月3日新聞2881・6)。
「一般経済価値」があるかどうかは、処分対象となる財産の価値、相続財産の全体の額、被相続人や相続人の経済状況、当該処分の性質を総合的に考慮して判断されるとされています。
したがって一律に判断することは難しいですが、少なくとも指輪や呉服、高級腕時計など、あまり高額のものを形見分けすることには慎重である必要があります。

⑤ 葬儀費用
葬儀費用を相続財産から支払った場合、原則として単純承認とみなされることはありません。ただし、あまりに分不相応な葬儀を営んだ場合や、葬儀にかこつけて相続財産を費消したような場合は、「処分」とみなされる可能性があるので、ご留意ください。

⑥ 死亡保険金
死亡保険金の受取人が相続人である場合は、保険金請求権はその受取人である相続人の固有財産となりますので、保険金を使っても相続財産の処分には当たりません。
他方、死亡保険金の受取人が被相続人自身であった場合は、保険金請求権は一旦被相続人に帰属し相続財産になると考えられますので、これを使ってしまうと「相続財産の処分」とみなされる可能性があります。