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2019.03.31

相続法改正ポイント⑥~遺留分制度の見直し

これまでは、遺留分減殺請求を行使すると、現に遺留分の対象となった財産を持っている人との共有状態になるとされていました。
つまり紛争当事者間で対象物を共有することになるため、その解消を巡って新たな紛争が生じる事もよく見られました。
そこで、遺留分減殺請求者は、侵害者に対して侵害された遺留分の金額に相当する金銭の支払いを請求することができる、
というように考え方を改め、遺留分減殺請求を金銭的な問題に落とし込むこととしました(新民法1046条)。

遺留分制度の見直しは、2019年7月1日からスタートします。

遺留分「侵害額」請求権

改正法は、遺留分減殺請求権を「遺留分侵害額請求権」とし、目的物の返還ではなく、侵害額に相当する金銭の支払を請求できる権利として改めました(新1046条1項)。
こうすることで、減殺請求によって目的物を侵害者との間で共有しなければならない不具合を回避できるようになります。
なお、請求できる金額や順序は、従前の遺留分減殺請求権と同様です(新1047条1項)。

遺留分侵害額の計算方法

新法により、相続人に対する特別受益に該当する贈与については、相続開始前10年間にしたものに限るとの限定が付されました(新1044条3項)。
ただし、これに該当しない特別受益でも、遺留分侵害額を計算するにおいては遺留分権利者が特別受益で得た財産として計算されますので、注意が必要です。
また、負担付贈与の場合は、相続人の遺留分額の計算において、負担の価額を控除して計算されます(新1045条1項)。

遺留分侵害額の具体的計算例

具体的な例を通じて見てみましょう。

配偶者と子Aのいる被相続人Xが、現金3000万円、不動産1000万円の相続財産と、300万円の債務を残した。
Aは、Xから、20年前、特別受益に該当する住宅資金の援助を500万円受けていた(※1)。
Xは、第三者Gに対して全財産を遺贈するとの遺言を残した。
また、Gは、生前のXから、X死亡の10ヶ月前に、200万円の負担がついた500万円の贈与を受けていた(※2)。

この場合にAがGに対して遺留分侵害額請求権を行使したという事例を考えます。

(1) まずAに認められる遺留分額を計算します。
この額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して計算します(新1043条1項)。

(全相続財産4000万円+(負担付贈与500万円-200万円 ※2)-債務300万円)×個別的遺留分割合1/4=1000万円

※1 相続人相手の当該贈与は20年前のものなので、遺留分価額に算入されません(新1044条3項)。
※2 相続開始前の1年間にした贈与は遺留分価額に算入されます(新1044条1項)。

(2) 次に、Aが侵害された遺留分侵害額を計算します。
遺留分侵害額は、(1)の額から「遺贈・特別受益となる贈与」「相続した財産」を控除し、「承継した債務」を加算して計算します(新1046条2項)。

1000万円-(特別受益500万円 ※1)+相続債務150万円=650万円

※1 遺留分侵害額の計算においては、特別受益に該当する贈与は価額参入されます。

したがって、AはGに対して650万円の金銭を支払うよう請求できます。
またGは裁判所に請求することにより、この負担の全部又は一部の支払いについて相当の期限の許与を受けることができます(新1047条5項)。