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2019.06.20

相続法改正ポイント⑨~預貯金の払戻し制度

平成28年年末の最高裁決定により、相続財産のうち預貯金も遺産分割の対象とされました。
このため、金融機関に口座名義人が亡くなったことの連絡をし、口座が「凍結」されてしまうと、遺産分割が終わるまでの間、預貯金を引き出すことはできなくなりました。
しかしこのために、遺産の預貯金から相続した債務の支払いをする、あるいは当面の生活費や葬儀代を工面する、ということもできなくなってしまい、支障が生じる恐れがあることから、改正相続法は遺産分割前に一定の範囲で預貯金を払い戻すことができると定めています。

預貯金払戻し制度

払い戻しができる範囲は、次のとおりです。
① 各預貯金額の3分の1に、払戻しを求める人の法定相続分を乗じた額
② ただし、1つの金融機関ごとに150万円まで

この払戻しは、家庭裁判所の判断も不要です。ご自身で金融機関に行き、手続をすることになります。
なお、この計算の基準時は「相続開始時」とされています。

具体的に説明します。
お父さんがX銀行に1500万円、Y銀行に3000万の預金を残して、令和元年10月に亡くなりました。
相続人は妻と2人の子ども、というケースを考えてみます。

この場合、法定相続分は以下のとおりです。
妻・・・1/2
子どもAB・・・それぞれ1/4

そうすると、遺産分割前に払い戻しを請求できる額は、以下のとおり計算できます。

妻からX銀行に対して・・・1500万円×1/3×1/2=250万円>150万円→150万円
子どもA・BからX銀行に対して・・・1500万円×1/3×1/4=125万円

妻からY銀行に対して・・・3000万円×1/3×1/2=500万円>150万円→150万円
子どもA・BからX銀行に対して・・・3000万円×1/3×1/4=250万円>150万円→150万円

規定の適用日について

この規定は令和元年7月1日以降に施行され、それ以前に死亡した人の相続についてはなお従前の例による、とされています(附則2条)。
ただし、令和元年7月1日以前の死亡の場合でも、7月1日以降に預貯金債権が行使されるときには、払戻しができるとされています(附則5条1項)。

ですので、上記の例でいうと、お父さんが令和元年5月20日に亡くなっていても、妻や子どもたちが令和元年7月1日以降に金融機関に請求すれば、上記の計算に従って遺産分割前の払い戻しを受けることができます。

必要な書類など

詳細は各金融機関にお問い合わせいただくことになりますが、上記のような計算をするために

①被相続人(口座名義人)が死亡したことがわかる戸籍(除籍)謄本
②相続人の範囲及びその法定相続分がわかる戸籍謄本

は、必ず必要になると思われます。
戸籍・除籍謄本は、本籍地の役場で取得できます。
郵送でも取り寄せることが可能です。

法定相続分がわかる範囲の戸籍の取り寄せとは、簡単に言えば相続人全員の戸籍、ということですので、収集には相当な手間がかかります。
また、どこまで必要かの判断には相続法の知識も必要となります。
弁護士などの専門家に戸籍収集を任せてしまうことも一つの方法です。

払戻し後の処理

この払戻しを受けた場合、遺産の一部分割により取得したものとみなされます。
つまり、その後の遺産分割の話し合いにおいて、既に「先取り」したものとして計算されることになります。
また、話し合いの結果、払戻し額>相続分となってしまった場合は、その超過部分は精算しなければならないことになります。先取りのままにすることはできません。
もちろん、話し合いの中で、払戻しを受けた分はその相続人の相続分とする、という結論にしてしまえば、精算の問題は起こりません。

遺言との関係

預貯金が遺贈や特定財産承継遺言(「相続させる」遺言)の対象となっている場合は、その預貯金は遺産に属しない(当然に対象者の財産となる)こととなるので、払戻しの対象となることはありません。
したがって、上記の例でいうと、お父さんが「X銀行の預金は妻に相続させる」という遺言を残していた場合、子ども二人はX銀行から払戻しを受けることはできません。

なお、金融機関は被相続人の遺言の有無やその内容を確認することができないので、子どもが遺言の存在を隠して払戻し請求をする危険も考えられます。
このことを防ぐため、妻としては、金融機関に対して速やかに遺言の内容を明らかにして承継の通知を行い、他の相続人の「抜け駆け」を防ぐ必要があります(改正民法899条の2第2項)。